マイクロフィルムとは何ですか?
皆さんはマイクロフィルムについて、どの程度ご存じでしょうか?
今回は資料の保存や活用として長年使用されてきているマイクロフィルムについてご紹介させていただきます。
形態やフィルムの種類、特徴などについてお話しさせていただき、フィルムの劣化と正しい保存方法についてもご紹介させていただきます。
マイクロフィルムとは
マイクロフィルムは、原情報を肉眼で読めないほど極度に縮小して作成された微小写真画像のことをいいます。
ロール状フィルムとシート状フィルムの2種類があり、現在ではPETベースの銀-ゼラチンフィルムが一般的です。
長期保存可能な可視媒体であり、法的証拠能力がありうる媒体として知られています。
またマイクロフィルムに係る各分野の規格が整備されており、世界共通の媒体としても知られています。
マイクロフィルムの形態
形態は大きく分けて、ロール状フィルムとシート状フィルムの2種類があります。
ロール状フィルム
リール式 |
35㎜幅、16㎜幅の2種類のフィルムがあります。 |
カートリッジ式 |
16㎜幅のフィルムでカートリッジに納めることで自動検索が可能です。 |
シート状フィルム
マイクロフィッシュ |
1枚のシート状のフィルムに多数のマイクロ像を配置したフィルムです。 |
マイクロジャケット |
リール式フィルムを切断し単一化したシート(ジャケット)に収納したものです。 |
アパーチュアカード |
リール式フィルムを切断し窓穴をあけたカード(アパーチュアカード)に保持したものです。 |
マイクロフィルムの種類
素材の違い
TAC(タック) |
三酢酸セルロース素材のフィルムで指で容易に引き裂けくことが可能で、光を通さない性質を持っています。
1980年代の後半にビネガーシンドロームと呼ばれる劣化問題が指摘されました。酸っぱい臭いがするのがこれです。
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PET(ペット) |
ポリエチレンテレフタレート素材のフィルムで指で容易に引き裂くことができず、光を通す性質を持っています。
1990年代の初期ごろからTACに代わって使用されはじめ現在にいたっています。
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※TACベースのフィルムから酸っぱい臭いがしてきたら、一度弊社の無償フィルム調査をご検討ください。
感光材料の違い
銀-ゼラチンフィルム |
撮影フィルムや複製フィルム |
ジアゾフィルム |
複製フィルムであり、費用が安価であったため、配布や閲覧用として重宝されました。 |
ベシキュラフィルム |
複製フィルムであり、費用が安価であったため、配布や閲覧用として重宝されました。 |
※ジアゾフィルム、ベシキュラフィルムを所有している場合は、早めにPET素材の銀-ゼラチンフィルムへの複製ないしデジタル化をお勧めします。
マイクロフィルムの特長
長期保存 |
適正な処理及び保存方法にて管理されたフィルムは期待寿命500年とされています。
保存方法については次項に記載しています。
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可視媒体 |
原情報を極度に縮小して作成されているが、ルーペなどで拡大すれば肉眼でも読むことが可能です。
デジタル媒体と違い、ハードやソフトなどに依存していないアナログ媒体であります。
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法的証拠能力 |
過去の裁判でも証拠として採用された実績がある媒体であり、定められた文書管理規定等に則り「証明方式」により撮影されたマイクロフィルムは法的証拠能力がありうると理解されています。 |
規格整備 |
JISやISOといった規格が整備されており、世界共通の媒体として利用することが可能です。 |
マイクロフィルムの劣化
TACの劣化 |
ビネガーシンドローム |
その他の劣化 |
マイクロスコピックブレミッシュ |
膜面の剥離・くっつきによる断裂 | |
劣化対策 |
定期的な確認を慎重かつ丁寧に行うことを心掛け、早期発見に努め、保管環境を改善することで劣化の進行を遅らせるようにしましょう。 |
※写真2~4ではフィルムの取扱いが困難であり、救済することは不可能となります。
マイクロフィルムの保存
JIS Z 6009(銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理及び保存方法)では、保存する環境条件として相対湿度と温度について表にて示されており、その湿度又は温度は、短時間に変動反復しないようにすると定められています。
表2 相対湿度及び温度の条件
保存条件 |
相対湿度% |
温度℃ |
||
最高 |
最低 |
最高 |
||
セルロース |
ポリエステル |
|||
中期保存条件 |
60 |
15 |
30 |
25(4)
|
永久保存条件 |
40 |
15 |
30 |
21 |
注 (4) 理想的には、温度は長期期間にわたって25℃を超えてはならず、20℃より低い温度が望ましい。短期的なピーク温度は32℃を超えてはならない。
備考1.この温度及び湿度の条件は、1日24時間維持しなければならない。
2.セルロースエステル及びポリエステルのフィルムを同一の場所で保管する場合、永久保存で推奨される相対湿度は30%である。
※JIS Z 6009:1994(銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理及び保存方法)より引用
マイクロフィルムの保存については、湿度と温度を意識しながら、定期的にフィルムの状態を確認して、状況に則した対応をとることが重要だと思います。
また保存区分(中期保存:最低10年間/永久保存:永久的)に該当するフィルムであるかの判断も重要です。自館での保存の必要性やオリジナルの有無、劣化の程度などを総合的に判断して決めていくことが得策です。
まとめ
マイクロフィルムは先に述べた長期保存・可視媒体・法的証拠能力・規格整備といった特徴があり、いまでも重宝され続けています。
一方、厳密な保存環境を維持することが難しく、ビネガーシンドローム以外にも様々な劣化事例が報告されています。
この機会に所蔵されているマイクロフィルムがどの様に保管され、状態はどうかなど、確認してみてはいかがでしょうか。
お声がけいただければ一緒に確認させていただくことも可能です。お問い合わせお持ちしております。
参考文献
・国立国会図書館収集書誌部資料保存課 マイクロフィルム保存のための基礎知識(令和元年9月改訂版)
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/pdf/microfilm2019.pdf
・東京大学経済学部資料室 文化資産としてのマイクロフィルム保存に関する基礎研究班
図書館・博物館・文書館のためのマイクロフィルム保存ガイド
・公益社団法人日本文書情報マネジメント協会 マイクロフィルム保存の手引き
https://www.jiima.or.jp/wp-content/uploads/basic/Microfilm_hozon.pdf
・公益社団法人日本文書情報マネジメント協会 マイクロ写真の基礎 Q and A
・JISZ6009:1994「銀−ゼラチンマイクロフィルムの処理及び保存方法」