
アナログ録音資料を残す。カセットテープをデジタル化するためのポイントとは?
文字や写真だけでは残すことが難しい臨場感や高い独自性などを、録音資料は正確に記録することができる貴重な資料です。
しかしアナログの録音資料が記録されているカセットテープやソノシートは、経年劣化や適切な温湿度で保存されていないと、カビや変形などで正常に音源を再生することが難しくなってしまいます。
そのため、カセットテープやソノシートが再生可能なうちにデジタル化を行い安定した記録媒体に媒体変換を行っていくことが重要です。
今回はアナログ録音資料のうち、カセットテープのデジタル化についてポイントをまとめてみました。
目次[非表示]
1.なぜ今、アナログ録音資料のデジタル化が必要なのか?
アナログ録音資料をデジタル化する最大の目的は、資料の保存と利活用の両立にあります。具体的には、以下の5つのメリットが挙げられます。
1)原資料の保存
録音資料をデジタルデータに変換して提供することで、痛みやすいカセットテープ等の原資料を利用に提供することなく、良好な状態で保存することが可能になります。
2)再生機器の寿命への対応
カセットデッキ等の録音資料の再生装置の生産終了により、将来的に録音資料を利用できなくなるリスクに備えます。
3)発見可能性の向上
請求記号、タイトル、目次などの資料の発見可能性を高める役割を持った書誌情報を中心としたメタデータを充実させることで、録音資料を探しやすくします。
4)利活用の促進
デジタル化により、教育やビジネスなど新しいサービスでの活用が幅広く行われ、新しいサービスなどの創出が期待できます。
5)災害対策
デジタル化により録音資料を複数箇所で保存が可能となることで、大規模災害による録音資料の消失リスクを分散することが期待できます。
2.デジタル化対象となるカセットテープの特性を知る
録音資料のデジタル化を進める前に、まずは対象となるカセットテープの特性を理解しておきましょう。
1)歴史と特徴
1962年にオランダで開発された磁気記録媒体で、正式には「コンパクトカセット」と呼ばれ、リールがケース(シェル)に収められた形態が特徴です。
トラック構成については、トラックモノラルと4トラックステレオの2種類があります。
ステレオ音源をモノラル機器で再生することも可能ですが、ノイズが発生する場合があるため、4トラックステレオ対応機器での再生が推奨されています。
2)規格等
カセットテープについては、国際規格(IEC)のほか、日本工業規格(JIS C 5562等)や日本レコード協会規格(RIS306等)で詳細が規定されています。
3)大きさ等
外寸サイズは102.4mm × 63.8mm × 12.1mm、テープ幅は3.81mmとなり全メーカー共通の規格となっています。
テープの厚みは収録時間が長くなるほどテープは薄くなります(例:C-60は約18μm、C-120は約9μm)。テープが薄いほど耐久性は劣るとされています。
4)収録時間
カセットテープの収録可能時間は片面6 分、両面12 分程度のC-12から、片面23 分、両面46 分のC-46、や片面60 分、両面120 分C-120まで幅広い種類が存在します。
5)磁性体による4つの種類(ポジション)等
記録性能向上のため、磁性体の種類に応じて以下の4つの「ポジション」に分類されます。
①Type I(ノーマル): 酸化鉄を使用。
②Type II(クロム/ハイポジション): 二酸化クロムを使用。
③ Type III(フェリクロム): 酸化鉄とコバルトを重ね塗りしたもの。(日本ではあまり流通しなかったようです。)
④Type IV(メタル): 酸化鉄ではない鉄を使用。録音には対応ヘッドが必要ですが、再生はType II対応デッキでも可能です。
上記の通りカセットテープは磁性体の種類によって4つのポジションがあり、再生時にはそれぞれの特性に合わせる必要があります。
3.失敗しないための再生機器とデジタル化の仕様
高品質な録音資料のデジタルデータを作成するためには、適切な録音資料の再生機器とファイル形式の選択が重要です。
1)カセットテープ再生機の要件等
① 定速走行: テープ速度 4.76cm/s(1 5/8インチ/s)の等速度再生を維持できること。
②速度偏差: 0.3%以下であること。
③ワウ・フラッター: 0.1%以下の性能を持つこと。
④再生周波数特性: 30Hz~20kHz(+2dB、-3dB)の特性を持つこと。
⑤テープポジション別の再生機能: ノーマル(Type I)、クロム(Type II)、メタル(Type IV)といった磁性体の種類に応じた再生切り替えができること。
⑥ノイズリダクション(NR)機能: 録音時に「Dolby(ドルビー)方式」などのノイズを抑えるためノイズリダクションが施されている場合、再生時にもそれに対応した設定可能な機能を持つこと。
⑦4トラックステレオ対応: 4トラックステレオのテープをモノラル機器で再生するとノイズが生じる可能性があるため、ステレオ対応であること。
⑧アジマス調整機能: ヘッドの角度(アジマス)がずれると音がゆがむため、専用機器を用いて適切に調整できること
2)推奨されるデジタル化の仕様
①音声コーデック: リニアPCM(無圧縮)
②ファイルフォーマット: WAVE形式(.wav)
③サンプリング周波数: 48kHz
④ビット深度: 24bit ※国際的なガイドライン(IASA TC-04)では、より高音質な96kHz/24bitも推奨されています。
4.デジタル化の工程(進め方)
1)対象資料の選定
資料の特性、劣化状況、利用者ニーズ、予算などを総合的に勘案し、優先順位を決定します。
2)対象資料の調査
作業工数を推定するため、点数、媒体種別、劣化状況、付属資料の有無などを詳細に調査します。
3)デジタル化仕様書の作成
成果物の品質や作業要件を定め、関係者間で共有します。
4)音声データのサンプル作製
仕様書通りの作製が可能か、本作業の前に検証用のデータを作製します。
5)サンプルの検証
作製されたサンプルが要件を満たしているか確認し、手戻りを防ぎます。
6)音声データ等の作製
仕様書に基づき、実際にデジタル化作業を行います。
7)成果物の検収
納品されたデータが仕様通りか、誤字率や音質などを検査します。
8)原資料及び音声データの保存処置
原資料を適切な環境で保管し、デジタルデータも長期保存に適した媒体に格納します。
5.音声データ等のデジタルデータ作製の手順
1)原資料の授受・運搬
カセットテープの保管場所から作業場所へ資料を移動し、リストと照合・記録します。
音声データのデジタル化を外部委託する場合には、委託業者さんとの間で資料授受の管理が可能なリストなどを取り交わすようにしましょう。
2)事前調査(目視確認)
デジタル化の前にカセットテープの外見(傷、カビ、破損など)を確認し、作業の可否を判断します。テープ部分に曲がりなどが発生していないか併せて確認します。
3)補修・クリーニング
必要に応じて、カセットのシェル(プラスチック製の外殻ケース)の交換や磁気テープの断裂補修などを行います。
4)試聴
カセットテープを巻き返して緊張をほぐし、全編(または部分的)に試聴して音質やノイズの状態、再生の可否を確認します。
5)録音作業(音声データの作製)
再生機器からA/D変換器を介してPCへ音声を取り込みます。原則として原資料の片面ごとに1ファイルを作製し、無音部分があっても最後まで録音します。
6)品質検査(検聴)
作製された音声データに音割れや異常ノイズがないか、音声編集ソフトウェア等を使用して確認をします。その際にPC内臓のスピーカーではなく、A/D変換器を介したヘッドホン又はスピーカーを用いて確認します。
7)音声データの編集
必要に応じてノイズリダクション等の処理を行います。音声データに対して編集を行った場合には、その内容を管理メタデータに記録します。
8)メタデータ及び管理データの作製
タイトルなどの書誌情報や、作業日・使用機材などの管理情報をTSV形式等で作成します。
※メタデータの詳細については次項をお読みください。
9)納品物の作製
作製された音声データを外付けHDDやBD-Rなどの媒体に格納し、ウイルスチェックや媒体のエラーレート検査を経て納品します。
このように、単に音を録音するだけでなく、事前の調査・補修から、適正な品質管理とメタデータの整備までを一貫して行うことがデジタル化の標準的な工程です。
6.メタデータの作製について
録音資料のデジタル化におけるメタデータとは、音声データの属性(書誌情報や目次など)や、データ作製に関する情報(作製日時や使用機器など)を記述した「データに関するデータ」を指します。
1)メタデータの種類と目的
メタデータは、利用提供時のアクセスの効率化や、データの長期保存・管理のために作成されます。大きく分けて以下の2種類があります。
①メタデータ(属性情報): 請求記号、タイトル、目次などの書誌情報を中心としたデータで、資料の発見可能性を高める役割を持ちます。
②管理メタデータ(管理データ): デジタル化の作業日、使用機材、ファイル形式、修復内容などの情報を指し、将来のデータ移行や長期保存の検討に不可欠な情報です。
2)主な記述項目の例
メタデータについては主に以下のような項目が記録されます。
①メタデータ項目:個体ID、請求記号、書誌ID、タイトル、面情報(A面/B面)、ジャンル、収録時間、目次、製作者(出版社・レコード会社等)、責任表示、発売年月など。
②管理メタデータ項目:ファイルサイズ、ファイルフォーマット、サンプリング周波数、ビット深度、デジタル化作業者・作業日、使用機器(再生機器・A/D変換器)、使用ソフトウェア、補修の有無と内容(磁気テープの断裂補修など)。
3)メタデータの情報源
メタデータに必要な情報は、カセットテープのスリーブ(外箱)、標準ケース内の歌詞カードやインデックスカード、テープ本体に貼付されたラベルなどから取得します。
4)作成・管理上の仕様
①データ形式: データの管理を容易にするため、一般的にTSV形式(タブ区切り)で作成されます。
②文字コード: Unicode(UTF-8、BOMなし)、改行コードはLFを使用します。
③作成のタイミング: デジタル化作業の工程内で取得できる情報(補修内容や使用機材など)は、その都度記録しておくことが望ましいとされています。
③管理単位: 原則として、音声データの格納ディレクトリ(音声アイテム)1件につき、1行のデータを作成します。
メタデータの作成には、目次情報の抽出などデジタル化作業とは異なるノウハウが必要になるため、作業フローを慎重に検討することが重要です
7.音声データ成果物の保存
音声データが格納された各保存媒体は用途に応じての使い分けましょう。
1)提供用
アクセスが容易な外付けハードディスク(HDD)等に格納します。
2)保存用
長期保存に適した光ディスク(CD-R、DVD-R、BD-R)等を用います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
アナログ録音資料のデジタル化は単なるコピー作業ではなく、貴重な音源資料を高品質な状態で次世代へ引き継ぐ大切な事業です。
カセットテープの寿命は10年から30年といわれており、保存メディアとしてはそれほど長寿命なメディアではありません。
また、高温多湿の気候や手垢・手脂などが原因でカビなどが発生してしまい、寿命を待たずに再生が難しい状態になっているかもしれません。
このようにカセットテープを何もせずにそのまま保存しているだけですと、後世に残すことが難しくなってしまうかもしれません。
文字ではなく「音」でしか伝えることができない情報が録音資料にはあります。
カセットテープに収められた録音資料を大切に、そして適切に次世代に引き継ぐためにも、デジタル化を検討してみてはいかがでしょうか。
参考URL
・国立国会図書館資料デジタル化の手引 録音資料編(カセットテープ、ソノシート)
・映画保存協会
磁気テープの適切な取扱いと保存方法










