博物館におけるデジタルアーカイブ化の現状と課題。メリットや取り組む注意点とは
近年、博物館を取り巻く状況が変化しています。文化芸術における調査研究活動の充実や、文化観光・地域活性化の貢献などの観点から、博物館に求められる役割は多様化・高度化しています。
そうしたなか、2022年には博物館法が改正されて、博物館の事業に“博物館資料のデジタルアーカイブ化”が追加されました。
博物館の担当者さまのなかには、「博物館におけるデジタルアーカイブ化の現状はどうなっているのか」「デジタルアーカイブ化にはどのようなメリットがあるのか」などと気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、博物館における資料のデジタルアーカイブ化について、現状と課題、メリットなどを解説します。
出典:文化庁『博物館法の一部を改正する法律(令和4年法律第24号)について』『博物館法の一部を改正する法律の概要』
目次[非表示]
博物館におけるデジタルアーカイブ化の現状
2022年に成立した博物館法改正によって、博物館の事業に博物館資料のデジタルアーカイブ化が追加されました。
博物館の資料をデジタルアーカイブ化して、インターネットを通じて公開することの意義として、以下が挙げられています。
▼博物館の資料をデジタルアーカイブ化する意義
- 博物館の資料に関する情報の保存と体系化
- 博物館における調査研究の成果を含めた資料の公共化
- 多様な創造的活動への博物館資料の活用促進
インターネットを介した情報共有・収集が行われるようになった今、博物館の資料をデジタルアーカイブ化する重要性は高まっていると考えられます。
また、新型コロナウイルス感染症の経験から、博物館の利用に制限が生じた際に、調査研究活動を維持するためのデジタルアーカイブの必要性・有効性も改めて認識されています。
文化庁の『博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について』によると、全国の博物館のデジタルアーカイブ化に関する取り組みの状況は以下のようになっています。
▼デジタル・アーカイブ化の取り組み状況
調査内容 |
結果 |
|
デジタル・アーカイブの実施有無について |
実施している |
24.4% |
実施を検討している |
26.4% |
|
実施予定なし |
49.2% |
|
デジタル・アーカイブに関する専門知識を持った 職員の有無について |
常勤職員が在籍 |
17.3% |
非常勤職員が在籍 |
6.5% |
|
在籍していない |
73.4% |
|
デジタル・アーカイブ化された資料の公開の有無について |
すべての資料を公開 |
9.1% |
一部資料を公開 |
66.8% |
|
公開していない |
24.1% |
文化庁『博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について』を基に作成
調査結果を見ると、デジタルアーカイブの構築や資料の公開を進められていない博物館が多くを占めており、専門知識を持つ職員も不足していることが分かります。
出典:文化庁『博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について』
博物館のデジタルアーカイブ化に関する課題
文化庁の『博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について』によると、博物館におけるデジタルアーカイブ化の取り組みについて以下の課題が挙げられています。
▼デジタルアーカイブ化に関する課題
- ICT を利用した新しい展示方法が導入できていない(80.6%)
- ウェブサイト等での資料情報公開が不十分(77.5%)
- 資料や資料目録のデジタル化ができていない(73.9%)
このような課題が生まれる背景には、ICTに精通した専門人材が現場に不足していることが考えられます。デジタルアーカイブ化を推進するには、ICTに関する専門知識・技術を持つ人材の確保や育成が求められます。
出典:文化庁『博物館資料のデジタル・アーカイブ化の目的・状況について』
博物館資料のデジタルアーカイブ化によるメリット
博物館の資料をデジタルアーカイブ化することによって、利用者が情報にアクセスしやすい環境となり、文化的資源を効果的に活用できるようになります。
▼デジタルアーカイブ化によるメリット
- 学習活動や文化芸術活動への貢献
- 資料管理の効率化
- 災害時における迅速な状況把握と復旧
- 現物資料の劣化・破損の抑制
デジタルアーカイブを通して、博物館に保管・展示された資料の価値が公共に共有されることで、学習活動や文化芸術活動に貢献します。また、資料情報を一元管理できると、現物資料の管理を効率的に行えるようになるほか、ほかの博物館との連携も容易になります。
さらに、博物館が所蔵・管理する資料をインターネット上で公開しておくと、自然災害が起きた場合に現物資料の損害状況を把握して、迅速に復旧対応を行うことが可能です。
デジタルアーカイブから資料を閲覧・利用できるようになれば、現物資料に接触する場面が減少するため、劣化や破損を抑制して長期保存につながります。
デジタル・アーカイブ化を進める際に気をつけること
博物館の資料をデジタルアーカイブ化する際は、目的に応じて保管方法や公開範囲、知的財産の取り扱いなどを決めることが重要です。特に気をつけておきたいポイントには、以下が挙げられます。
現物資料は処分しない
デジタルアーカイブ化を行う際は、博物館に保管された現物資料は処分しないように注意する必要があります。
博物館における資料のデジタルアーカイブ化は、現物資料の保存を代替とするものではありません。現物資料そのものに価値があることを踏まえて、適切な方法で保管することが重要です。
デジタル化した資料は公開する
デジタルアーカイブ化した博物館の資料は、インターネット上で公開することが重要です。公開して多くの人に見てもらうことで、文化芸術や調査研究活動の充実を図ったり、地域の活性化に貢献したりできます。
また、資料の価値をさらに高めて、デジタルアーカイブの利活用を促すために、以下のような情報を付与することもポイントです。
▼デジタルアーカイブ化する際に付与する情報
- 地理情報・時間情報・人物情報
- 専門的な人名・地名や用語についてまとめた辞書・典拠・シソーラス
- 二次利用の条件
知的財産の取り扱いを確認する
博物館に保管されている比較的新しい資料のなかには、著作権が発生するものもあるため、知的財産の取り扱いについて確認しておくことが重要です。
著作権の保護期間が満了している資料については、原則として権利の問題は発生しませんが、プライバシー権や著作者人格権などへの配慮が必要になることに注意する必要があります。
デジタルアーカイブの方向性を決める
館種や館の特性、地域の実情に応じて、どのようにデジタルアーカイブ化を進めるか方向性を決めることも必要です。
例えば、学習に用いられる資料であれば、学校教育の教材資料として活用することを踏まえてデジタル化を推進する必要があります。
まとめ
この記事では、博物館におけるデジタルアーカイブについて以下の内容を解説しました。
- 博物館におけるデジタルアーカイブ化の現状
- デジタルアーカイブ化に関する課題
- デジタル・アーカイブ化によるメリット
- デジタル・アーカイブ化を進める際に気をつけること
博物館の資料をデジタルアーカイブ化して情報を広く公開することによって、貴重な資料の価値が共有されて、文化活動や調査研究などに貢献すると期待できます。
ただし、デジタルアーカイブ化を実現するためのICTに関する専門人材が不足していることから、構築が進んでいない博物館も多くみられるのが現状です。
博物館の種類や特性に応じた、使いやすいデジタルアーカイブを安全に構築するには、専門企業に依頼することも一つの方法です。
『デジアカ』では、博物館に保管される貴重資料のデジタル化やデジタルアーカイブの構築をワンストップで支援いたします。現物資料の安全を第一に考慮したうえで、高品質なデジタルアーカイブを構築するための画像データを作製します。
詳しくは、こちらの資料をご覧ください。
なお、マイクロフィルムを電子化するメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。