生命保険会社におけるマイクロフィルムの劣化対策事例
過去に作成した膨大なマイクロフィルムが保管庫に眠っているという組織は数多くあります。
官公庁や自治体、民間企業など様々ですが、
その膨大なマイクロフィルムの劣化の進行や、
利活用の方法などが課題となっている組織が多いようです。
今回は民間企業の生命保険会社(A社)に事例にスポットをあてて、
マイクロフィルムの劣化・利活用に関する対策案の事例をご紹介します。
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膨大なマイクロフィルムの現状に関するヒアリング
まずは生保会社A社様から、マイクロフィルムを取り巻く現状に関してヒアリングを実施しました。
主な内容は次のようなものでした。
・マイクロフィルムは、ロールフィルムで約3万本保有している。
・日々のマイクロフィルムへの照会件数は多く、5名の要員で照会対応をしている。
・中には酸っぱい臭いを発しているフィルムがある。
・以前(他業者から)マイクロフィルムの電子化に関する見積をとったが、概算で10億円程度の金額で、実現するには程遠い金額であった。
ヒアリング結果から導き出された課題とご要望
マイクロフィルムを取り巻く現状のヒアリング結果から、
導き出された課題は次のようなものでした。
・劣化により収録されている情報が読めなくなってしまうリスクが年々高まっている。
・日々のマイクロフィルムによる照会業務を効率化したい。
・専門的な観点でマイクロフィルムの調査と診断を実施し、診断結果を踏まえた複数の対策案を提示してほしい。
・複数の対策案から、コストと有効性、実現可能性の観点で比較をし、施策を決定したい。
以上のような課題やご要望を踏まえ、調査を実施することになりました。
調査の実施
ロールフィルム約3万本に対し、次のような調査を実施しました。
①状態調査
当社の専門スタッフがマイクロフィルムを外観で調査し、下記の判定表に基づいて診断をしました。
状態調査は劣化が進行して酢酸臭が強い場合には、
下の写真のような防護服を着用して実施します。
②ADストリップによる調査
ADストリップという診断ツールを用いて調査し、劣化の進行具合をレベルで数値化しました。
またレベルごとの状態と講ずるべき措置内容は、下の判定表のようなものになります。
③TAC・PET判定調査
劣化が進行しやすいTACベースのフィルムと、
経年劣化への耐久性の高いPETベースのフィルムの判別を、
当社が独自に開発した判別器を用いて調査しました。
TACベースとPETベースに関してはこちらをご参照ください。
調査結果
3つの調査(①外観による状態調査、②ADストリップ調査、③TAC・PET判定調査)の結果は次のようなものでした。
①ロールフィルムの状態調査
全体のうち3.5%が「判定表」のC以上。
つまり電子化をする際には全体の3.5%(1,050ルール)が、電子化の前に複製作業や平面化作業が必要という診断となりました。
劣化が進行しているとフィルムが蛇行していて、
マイクロフィルムをスキャニングしてもきちんとした画像データを取得できないためです。
使用にも耐えられないほどのフィルム(Eランク)はありませんでした。
劣化レベルごとの主な症状や対策などについては、こちらをご参照ください。
②ロールフィルムのADストリップ調査
全体のうちLevel2以上の状態にあるフィルム(早期に媒体変換や平面化・複製などが必要)は3.7%程度あると診断され、危険水域にあるフィルムの量は、状態調査の値とほぼ同じ結果となりました。
③TAC・PET判定調査
ADストリップ調査でLevel2以上の危険水域にあるフィルムは、
全てTACフィルムであることが判明しました。
全体量は同様に3.7%でした。
対策案
先述の通り、全てを電子化した場合には数十億円の費用がかかるため、
まずは選定基準を設けて、電子化をするマイクロフィルムを絞り込み、
今後も継続してマイクロフィルムのまま保管するものと選別しました。
<電子化をするフィルムの選定基準>
①ADストリップ調査で2.0以上の値のフィルム
②TACベースのフィルム
③使用頻度の高い書類を収録したフィルム
④劣化が進行したフィルムを保管しているエリア内のフィルム
<マイクロフィルムでの保管を継続するフィルムの選定基準>
①作成年代が新しいフィルム
②使用頻度が低いフィルム
③長期的な保存が求められるフィルム
さらに電子化の場合の外注or内製、
継続保管する場合の複製or包材交換のみについては、
下のような4象限で分類し、選別しました。
※包材交換とは、マイクロフィルムの保存箱や、保管用の乾燥剤などを指します。
こうした基準で選別することで、
費用対効果の高いマイクロフィルムだけに電子化対象を絞り込むことができました。
最終的にはそれぞれのパターンで費用を算出し、
予算計画を策定して複数年計画で実施しています。
まとめ
膨大なマイクロフィルムを持っている場合、
全てを電子化することは費用的に困難です。
劣化の進行具合と使用頻度などの観点で電子化対象を絞り込み、
費用対効果を最大限に引き出すことが重要です。
こうしたマイクロフィルムの電子化作業や劣化具合の診断には、
専門的な知見やノウハウが必要です。
まずは無料の簡易調査も受けまわっていますので、
お気軽にお問い合わせください。
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