どれから手を付ける?劣化したマイクロフィルムの優先順位とは
保管しているマイクロフィルムが劣化してしまった場合、劣化したマイクロフィルムに対して劣化対策(マイクロフィルムの修復、複製、酢酸対策等)を行わないと、劣化が進行してマイクロフィルムを長期保存することが不可能になってしまいます。
今回は、劣化したマイクロフィルムに対して劣化対策をする場合、どのようなマイクロフィルムから手を付けたら良いか、優先順のつけ方のポイントをまとめました。
大切に保管していたマイクロフィルムから、なんだか酸っぱい臭いがしているような、、
もしかしてこれは、劣化している?!
このような事態になってしまったら、劣化したマイクロフィルムに対して劣化対策を実施しないと、マイクロフィルムの劣化によって形状変化が進み、いずれはマイクロフィルム自体が破損してしまい、長期保存することが困難になってしまいます。
そのため、劣化したマイクロフィルムに対する劣化対策はとても大切です。
大量のマイクロフィルムが劣化してしまった場合、全ての劣化したマイクロフィルムに対して劣化対策を実施することは費用的・時間的大きな負担になってしまいます。
そこで、劣化対策は優先順位をつけて段階的に実施することが多いのですが、どのマイクロフィルムから手をつけたらよいのでしょうか。
今回は劣化対策を実施する際に考慮する優先順位についてまとめました。
1.マイクロフィルムの種類と劣化状態
①ネガフィルムを優先させる
マイクロフィルムにはネガフィルム(保存用)と複製フィルム(活用用)があります。
ネガフィルムと複製フィルムではネガフィルムがオリジナルで収録されている資料の再現性等がネガフィルムの方が優れているため、同一資料でネガフィルムと複製フィルムが劣化している場合には、オリジナルのネガフィルムを優先させます。
②TACベースを優先させる
主なマイクロフィルムの素材はTACベース(三酢酸セルロース)とPETベース(ポリエチレンテレフタレート)になります。
マイクロフィルムから酸っぱい臭いがする、変形するなどの劣化現象は、マイクロフィルムの素材がTACのマイクロフィルムで発生するため、TACベースフィルムのマイクロフィルムを優先させます。
マイクロフィルムのTACとPETの見分け方についてはこちら!
③劣化が進行しているフィルムを優先させる
マイクロフィルムの劣化は時間経過とともに進行していきます。
劣化が進みすぎると劣化対策としての複製や修復など行うことができなくなってしまう場合があります。そのため、劣化が進行しているフィルムを優先させる必要があります。
劣化の進行具合については、保管環境や利用環境などで様々な事象があるのですが、一般的には以下の順番で劣化は進行していきます。
・酸っぱい臭い(酢酸臭)がしてくる
・フィルムが波打つ
・フィルムの柔軟性がなくなってひび割れ等が発生する
・触ると破損してしまう
「触ると破損してしまう」レベルの劣化状態ですと、劣化対策を実施することは難しい状態です。
酸っぱい臭いがしているマイクロフィルムの中で、マイクロフィルムの柔軟性がなくなってきて、マイクロフィルムを巻き出す際に「パリパリ」と音がするようなマイクロフィルムがあったら優先して劣化対策を実施しましょう。
2.オリジナル資料の有無
マイクロフィルムに収録されている資料が現存するか否かという点になります。
マイクロフィルムに収録されている資料は、収録した資料自体が劣化してしまい現存していない場合や、マイクロフィルムへの収録後に資料を廃棄している場合もあります。
マイクロフィルムの劣化が進行して、マイクロフィルムを再作製せざる得ない場合に、収録元の資料がないとマイクロフィルムを再作製することもできず、資料情報が失われてしまう事になります。
そのため、同じように劣化が進行しているマイクロフィルムがあった場合には、収録した資料自体が現存しないマイクロフィルムを優先させましょう。
3.他機関の所蔵状況
マイクロフィルム資料は、同じマイクロフィルムを他の類似機関で所蔵している場合があります。
マイクロフィルムを作製する際に、他機関から収録資料の提供を受けて作製することがありますが、マイクロフィルムが完成した際に資料の提供を受けた機関へ、複製マイクロフィルムを寄贈するということがあります。
このような場合には、同じマイクロフィルムが2機関で所有されることになります。
劣化してしまったマイクロフィルムが他機関では問題なく保管されていた場合には、他機関からマイクロフィルムを借受けて複製を取ることもできますし、他機関が所蔵しているのであれば廃棄してしまうという選択肢を検討することも可能となります。
そのため、他機関でも所蔵されていないマイクロフィルムを優先するようにしましょう。
4.マイクロフィルムの資料価値
マイクロフィルムに収録されている資料は、貴重な資料から日常的に使用している文書など様々だと思います。
収録されている資料がマイクロフィルムとして残すべき資料なのか、代替えの資料で事足りるのか、利用と保存の両面から検討をして「残すべき」と判断されるマイクロフィルムを優先しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。劣化したマイクロフィルムに対する劣化対策を優先順位をつけて実施するためには、事前にマイクロフィルムのことを知ることが重要であることが分かってきました。
保管されているだけになってしまっているマイクロフィルムが多いと思いますが、今回のように劣化対策を検討することになると、改めてマイクロフィルムと向き合うことになり、新たな発見や資料価値が生まれるかもしれません。
劣化対策を検討するにあたり重要で且つ判断が難しく悩んでしまうのは、「マイクロフィルムがどの程度劣化しているか」ということだと思います。
そんな時はマイクロフィルムを取り扱っている経験豊富な専門業者さんに相談してみましょう。
劣化状態だけでなく今後の方針についても相談にのってもらえるはずです!
参考URL
国立国会図書館所蔵マイクロ資料長期保存対策方針
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/pdf/micro_housin.pdf