デジタル化の正確な見積の為に必要な情報とは。 ―その4(作業場所・資料運搬 編)ー
貴重資料、紙資料のデジタル化計画にあたり、正確な費用の算出は大切な要素となります。デジタル化を行う委託業者さんに見積を依頼する際に、どのような情報を提供すればよいのでしょうか。ポイントをまとめました。
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貴重資料、紙資料のデジタル化に必要な見積とは
貴重資料、紙資料のデジタル化を行うための見積には、デジタル化を行う委託業者さんの全ての業務に係る費用が漏れなく反映されていないと、デジタル化事業を安全に進めることが難しくなってしまいます。
正確な見積を得るためには見積を依頼する側と見積する側がデジタル化に際しての課題やデジタル化の完成イメージを共有することがとても大切です。
その第一歩は見積依頼に際して必要な情報を用意することにあります。
見積依頼に際して必要な情報のうち、前回は資料の劣化や開きに関係する「資料状態」(前回の記事はこちら!)についてお伝えしましたが、
今回はデジタル化作業を行う場所やデジタル化対象資料の搬送に係る「作業場所・資料運搬」について委託業者さんへどのような情報を伝えると良いかポイントをまとめました。
見積の為に必要な情報 ―作業場所・資料運搬― について
デジタル化作業を行う場所や資料運搬に関する情報や要件になります。
資料の貴重性や各要件によりデジタル化作業を行う作業場所を定めることは、安全にデジタル化作業を実施するためにとても大切です。
デジタル化対象資料が貴重な資料の場合には、デジタル化作業を資料所蔵施設内に作業場所を設けて行う必要があるかもしれません。
また事業及び資料の性質上、委託業者さん施設内へ資料を運搬しデジタル化作業を行うことが必要な場合もあります。
作業場所や資料運搬方法によって、デジタル化作業に使用する機材や作業体制、必要経費などが大きく異なる可能性が高くなります。
作業場所や資料運搬に関する情報や要件は、資料自体の安全に関する内容が多くなる為、デジタル化対象資料に係る情報やデジタル化の作業仕様と併せて、見積依頼時には必ず提示すべき大切な事項となります。
見積依頼時に提示する「作業場所・資料運搬」に関する情報や要件は概ね以下の2種類となります。
1.デジタル化作業実施場所に関する情報及び要件
デジタル化作業及びデジタル化対象資料の保管を、どこでおこなうかという情報になります。
デジタル化対象資料には貴重な資料や一般文書など様々な性質のものがあると思います。
デジタル化対象資料が貴重資料である場合には、所蔵施設からデジタル化作業を行う委託業者さんへの運搬や資料が外部保管になることを避ける必要があるかもしれません。
その場合には委託業者さんにデジタル化作業を行う機材等を所蔵施設内に持ち込んで作業場所を設けてもらい、所蔵施設外に持ち出さない方法を選択することになるかもしれません。
もしくは、大量の資料を短期間でデジタル化を行うために、大量処理の設備が整った委託業者さんの施設内に資料持ち込んでデジタル化作業を行うことが必要になるかもしれません。
デジタル化作業を行う場所が異なることにより作業体制、使用機器、運搬要件など費用も大きく異なるため、見積を行う際にはとても大切な情報となります。
また、この費用についてはデジタル化作業を依頼するお客様側では想像が難しい部分も多くあるので、しっかり委託業者さんに伝えて必要な経費を算出してもらうことが大切になります。
デジタル化作業実施場所に関する主な情報や要件は以下の通りとなります。
1)資料所蔵施設内でデジタル化作業を行う場合に必要な情報
①作業場所に関する情報
ア)作業場所の位置情報:作業場所の所在地及び作業場所が施設内のどこに位置するかという情報になります。作業場所の位置が施設の2階以上にある場合には、デジタル化作業に使用する機器の搬入等に、エレベーターの利用が可能か併せて提示する必要があります。
(機器の搬入に際しエレベーターが使用できない場合には、搬入作業人員の増員や必要備品が発生するため提示する必要があります。)
イ)作業場所の広さ:デジタル化作業には、デジタル化作業そのものを行う広さと、資料を一時的に保管する広さを考慮した場所が必要になります。
デジタル化作業に必要な広さについては作業に使用する機材や工程により必要な広さが異なるので、作業場所を検討する際は、委託業者さんに作業に必要な広さを確認する必要があります。
委託業者さんから提示された広さを満たす作業場所が決定したら、可能であれば作業場所の図面や概略図と併せて作業場所の広さを提示できると、委託業者さんにてより具体的な検討が可能になると思います。
ウ)天井の高さ、窓の有無:デジタル化作業を行う際に機器の設置場所によっては、外光を遮断する必要が発生する場合があります。
窓にカーテンやブラインド等の遮光設備が無い場合や、設備されている照明機器で光量の調整が難しい場合には、窓への遮光措置や天井と床へ伸縮棒等を利用して遮光空間を構築する必要が出てくるため、見積を検討するうえで必要な情報となります。
エ)作業場所の電源情報:作業場所に備えられている電源の対応電力数、個数、設備箇所の情報となります。
デジタル化に使用する機器に電源を供給するために電源設備以外に機器等が必要か判断する情報となります。
②作業機材搬入に関する情報
ア)出入口の寸法:デジタル化作業に使用する機材を搬入する際に通過する各入口の幅と高さの情報となります。
具体的にはデジタル化作業に使用する機材を搬入する施設内の出入口、エレベータードア、作業場所の出入口などの寸法になります。
出入口の寸法に作業機材が入らない場合には、機材選定をやり直すか機材を解体して現地で組み立てるか等の検討が発生するため必要な情報となります。
イ)駐車場の有無及び広さ等:デジタル化作業に使用する機材は、委託業者さんが車両で持ち込むことになりますので、駐車場が必要となります。
機材搬入車両の為の駐車場があるか、また駐車可能な車両の大きさはどのくらいかという情報になります。
駐車場の利用が制限されている、または車両の大きさに制限等があると、使用する車種や台数に制限が出てくるため、車両等の選定に必要な情報となります。
③養生の必要性及び長さ
施設内のデジタル化作業に使用する機材を搬入する経路、作業場所から資料保管場所への資料運搬経路など各作業に使用する経路について養生が必要か否か、また必要な場合にはどのような養生材を使用して、どのくらいの長さ(広さ)が必要になるか提示する必要があります。
養生材の種類及び長さによっては養生材設置のために車両や人員を用意する場合も出てくるため、大切な情報となります
④デジタル化作業日時
デジタル化作業が施設内で行える曜日や時間の情報となります。
施設内で作業を行う場合には施設の就業規則に準拠して行うことが多く、施設の就業規則が委託業者さんの就業規則と合致していない場合も多いため、作業体制や就業体制を検討するために必要な情報となります。
※作業場所に関しては、作業場所候補が決まりましたら必ず委託業者さんに現地確認をしてもらうことをお勧めします。文書や口頭では伝わりにくい部分もあり認識を共有できない場合がありますので注意が必要です。
2)委託業者さんの施設にてデジタル化作業を行う場合に提示する要件
①施設に対する提示要件
ア)施設の立地場所:委託業者さん施設にてデジタル化作業を行う場合には、所蔵施設からデジタル化対象資料を委託業者さん施設へ運搬する必要があります。
運搬時のリスク軽減の為デジタル化対象資料の所蔵施設からデジタル化を行う委託業者さん施設までの距離等を制限する必要があるかもしれません。
その場合にはデジタル化を行う施設について所蔵施設からの距離もしくは所要時間等を要件として提示する必要があります。
イ)資料保管設備:貸与する資料を保管する設備として、資料保管場所への入退館を管理する設備や専用の資料保管庫が必要だと考える場合には、委託業者さんの施設要件として提示する必要があります。
ウ)防火体制:貸与する資料を保管する設備として自動消火設備、防火扉など防火設備が必要と考える場合には、委託業者さんの施設要件として提示する必要があります。
資料保管庫に耐火性能を持たせる場合にも要件として提示する必要があります。
②情報保護に対する要件
資料及び資料情報を安全に管理するために情報保護の設備や体制が必要と考える場合には施設要件として以下を提示する必要があります。
情報保護に関する設備や体制を整えると為の費用を見積費用に含む必要があるか検討するために必要な要件となります。
ア)情報保護に関する設備:施設及び資料保管場所への部外者の侵入を防ぐような入退管理や、セキュリティが整ったネットワークが構築されている等、資料及び資料情報を安全に管理できる設備を要件として提示します。
イ)情報保護に関する体制:貸与される資料に係る情報が、適切に取り扱われる情報保護の体制及び規定等が整っているか情報管理体制を要件として提示します。
(情報保護に対する要件については委託業者さんが情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格を認証取得しているかを要件に入れることが一般的です 。)
2.デジタル化作業対象貸与資料の運搬に関する要件
デジタル化作業を行うにあたり、デジタル化作業を委託業者さん施設内で行うためデジタル化対象資料を委託業者さん施設に持ち込む等、所蔵施設からデジタル化対象資料を運搬する必要が出てきた際に提示する要件となります。
ここでは車両による運搬を想定しておりますが、運搬については資料が影響を受けやすい要件となりますので、運搬の委託業者さんと依頼するお客様側で共有認識を持てるように情報や要件を提示する必要があります。
1)貸与資料の運搬方法
貸与された資料を運搬する際に資料保全を考慮した運搬方法が必要と考える場合には、宅配便などの混載便ではなく、資料貸与場所から直接委託業者さん施設まで資料を運搬する単独便であることなどを資料運搬要件として提示する必要がでてくるかもしれません。
その反対に安価に運搬することが必要と考える場場合には、宅配便などの混載便による資料運搬を要件として提示する必要があります。宅配便などの混載便と単特便では資料運搬費用が異なるため大切な要件となります。
2)貸与資料の運搬に使用する車両
貸与された資料を運搬する際に使用される車両について、宅配便などの混載便、単独便にかかわらず資料を積載する荷台についてアルミ製の荷台を備えている、もしくは運転席と一体型になっている荷台等の要件を提示する必要があります。
上記以外の荷台では悪天候時や万が一の運搬中の事故の際に、資料に与える影響が大きく資料保全上重大な問題が生じてしまう可能性があるため大切な提示要件となります。
3)担当職員さんの同乗の有無
デジタル化対象資料の移動に際して所蔵施設担当職員さんの同乗が必須になっている場合には、担当職員さんが資料と一緒に同乗することを要件として提示する必要があります。担当職員さんが同乗することが可能な車両を検討するために必要な要件となります。
まとめ
今回は見積に必要な情報、要件のなかで「作業場所・資料運搬」についてまとめてみました。
デジタル化作業そのものに係る内容ではありませんが、資料の保全及びデジタル化作業を安全に遂行するためにはとても大切な事項になると思います。しかしデジタル化作業そのものではないので、デジタル化作業に係る作業場所・資料運搬についてまとめたような資料を入手する機会も少なく、想像も難しい部分が多いと思います。
その際には経験豊富なデジタル化業者さんにご相談してみましょう。過去の作業実績などから具体的な検討事項や参考になる意見をいただけると思います。
次回「デジタル化の正確な見積の為に必要な情報とは。」は
―その5(資料貸与返却・作業条件 編)―になります。
参考URL
・国立国会図書館資料デジタル化の手引2011年版(平成23年8月改訂)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10341525_po_digitalguide170428.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
・国立国会図書館と資料保存
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/pdf/preservation.pdf