デジタル化の正確な見積の為に必要な情報とは。 ―その5(資料貸与返却・作業条件 編)ー
貴重資料、紙資料のデジタル化計画にあたり、正確な費用の算出は大切な要素となります。デジタル化を行う委託業者さんに見積を依頼する際に、どのような情報を提供すればよいのでしょうか。ポイントをまとめました。
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貴重資料、紙資料のデジタル化に必要な見積とは
貴重資料、紙資料のデジタル化を行うための見積には、デジタル化を行う委託業者さんの全ての業務(資料の貸与からサンプル作製(必要に応じて)、デジタル化、納品媒体作製、納品業務、資料返却等)に係る費用が漏れなく反映されていないと、デジタル化事業を安全に進めることが難しくなってしまいます。正確な見積を得るためには見積を依頼する側と見積する側がデジタル化に際しての課題やデジタル化の完成イメージを共有することがとても大切です。その第一歩は見積依頼に際して必要な情報を用意することにあります。
前回は「作業場所・資料運搬」についてお伝えしましたが、今回は「資料貸与返却・作業条件」について委託業者さんへどのような情報を伝えると良いかポイントをまとめました。
見積の為に必要な情報 ―資料貸与返却・作業条件― について
デジタル化作業の際に発生するデジタル化対象資料の貸与及び返却と、委託業者さんに求める資格やデジタル作業に係る発生文書類など作業条件に係る情報になります。
デジタル化作業の際に最も避けなければならない事態は資料が紛失してしまうことです。
資料の紛失を防ぐためには、デジタル化作業開始及び終了時に委託業者さんと安全に資料貸与、返却を行うことが大前提となりますが、デジタル化対象資料が大量にある場合や、劣化が進行している場合などは資料の貸与返却に準備や人員が必要になることがあります。どのような資料をどのような方法で貸与し返却するのか具体的に委託業社さんに提示することは、安全なデジタル化作業には欠かせません。
またデジタル化作業を安全に行い、安定した高品質のデジタル画像を取得するために様々な方法がありますが、委託業者さんに一定の資格要件を条件として求めることも一つの方法です。さらに安全なデジタル化作業実行のためには、所蔵施設担当職員さんが進行中のデジタル化作業を把握するために様々な文書を、委託業者さんに求めることも必要になるかもしれません。委託業者さんに求める資格や作業における発生文書など、デジタル化作業を安全に実施する上でこれらの作業条件を提示することは大切な要素となります。
資料貸与返却及び作業条件については、委託業者さんが要求事項を満たすために事前の準備や人員の手配、資格の取得などが必要になり、見積金額に影響を及ぼす可能性が高い情報となります。そのため見積依頼時には委託業者さんへ正しく具体的に、これらの情報を提示する必要があります。
1.資料の貸与及び返却
デジタル化作業を資料保管施設内で行うか、委託業者さんの施設内に持込行うかにかかわらず、資料の貸与と返却は発生することになります。保管されていた資料がデジタル化作業後も無事に元の保管場所に戻ることができるように資料の貸与及び返却を行う必要があります。資料の貸与及び返却を行う際の条件や、デジタル化対象資料の数量などによって、費用が大きく異なるため見積を依頼する際には委託業者さんに正しく伝える必要があります。資料の貸与及び返却に関して委託業者さんに伝える主な情報は以下の通りです。
1)資料リストの有無
貸与するデジタル化対象資料のリストとなります。資料の貸与及び返却はこのリストを基に行うことなります。リストがあることでデジタル化対象資料の1点毎の物理的な管理が可能となり、資料の紛失リスクを大きく軽減することになります。
資料リストには請求番号などの管理番号、資料名、号数、など資料を1点ずつ確認できるユニークな情報が必要となります。
もし資料リストがない場合には委託業者さんにデジタル化作業と併せてリストの作成も委託する必要が出てくるかもしれません。もしくはリストの作成までは行わなくても、資料1点毎に仮の管理番号を付与する等、資料管理の為の作業が発生する可能性があります。デジタル化対象資料リストの作成を含む資料の管理作業を委託した場合には、デジタル化作業のみと比べて見積の金額が大きく異なる場合がありますので、委託業者さんに見積依頼する際には、デジタル化対象資料のリストが存在するか否か正確に伝え、リストが存在する場合には可能であればそのリストを提示できるとより良いと思います。
2)資料の排架(保管)状況
貸与される資料がどのように排架(保管)されているかという情報になります。資料を漏れなく貸与及び返却するためには、資料リストの記載順番もしくは請求番号順番など、分かりやすい順番で1点毎に貸与することが大切になります。そのためには資料リストに記載されている順番もしくは請求番号の順番通りに排架(保管)されており、その順番通りに貸与及び返却ができることが望ましい状態です。
資料の排架(保管)状況が資料リストや請求番号の通りになっていない場合には、資料を1点毎に探して貸与することが必要となります。さらに貸与の際に返却時に元の位置に元せるようにアリバイカード等を用意し、資料の排架’(保管)場所に配置するなどの作業が必要となる場合が発生するかもしれません。その場合には資料を探す工数の他に様々な工数と人員が必要となることになります。
そのため、資料の排架(保管)状況について委託業者さんへの見積依頼時に正しく提示するか、可能であれば資料の排架(保管)状況を委託業者さんに確認してもらうことが大切になります。
3)資料の貸与及び返却を行う場所
資料の貸与及び返却を行う場所によって、作業の人員や準備する機材、備品が大きく異なる場合があります。そのため資料1点毎の確認、デジタル化作業場所への搬送のための搬送備品への梱包作業などを行える場所について〇〇㎡、〇〇m×〇〇mなど具体的に広さを示すことができるとよいでしょう。
4)貸与回数
資料の貸与及び返却を何回で行うかという情報になります。1回で行う場合と複数回で行う場合では、必要になる人員や備品、運送車両による資料搬送回数などが異なるため費用に大きく影響する場合があります。また、資料の貸与は複数回で行うが返却は一括などの条件がある場合にも見積依頼時に伝える必要があります。
5)資料の確認方法
貸与する資料及び返却される資料の1点毎に確認する方法になります。資料1点毎に所蔵施設担当職員さんと読み合せを行い資料確認する方法や、資料に貼付されているバーコードをバーコードリーダー等で読取行う、もしくは委託業者さんが点数のみ確認し、詳細については委託業者さんで確認後報告する等、確認方法により貸与及び返却に要する工数や時間が大きく異なるため、見積依頼時に具体的にどのような資料確認方法を想定しているか伝えることが大切です。
2.作業条件
デジタル化作業を安全に行い、安定した高品質な画像データを取得するためには、デジタル化作業を行う技術者にデジタル化作業に関連する資格の取得や実績、また委託業者さんが品質管理や情報保護等に関して第三者機関の認定を受けていることを求めることも方法の一つです。
また、委託業者さんで行われるデジタル化作業を、所蔵施設担当職員さんが把握することもデジタル化作業を安全に行う上で必要なことになりますが、一日中デジタル化作業に立ち会うわけにはいきません。
そのため作業進捗や課題管理などデジタル化作業に係る文書を委託業者さんに提出することを求める場合があります。文書の内容や発生件数によって作成に必要な情報の取りまとめ、文書の作成工数などを見積に際して算出する必要があります。
これらの作業条件に関して委託業者さんに伝える主な情報は以下の通りです。
1)デジタル化作業者の資格、実績等
デジタル化作業を実際に行う作業者に対して求める資格は様々ありますが、特殊すぎる資格としてしまうと、資格を取得している人員が限られてしまいデジタル化できる数量が少なくなってしまったり、人件費が高くなってしまったりますので注意が必要です。
デジタル化作業者に求める資格は公共施設さんなどの入札案件等を確認すると、一般的な資格が条件に記載されていますのでご参考されるとよいでしょう。
委託業者さんでは要求されたデジタル化作業者の資格者の人数や人件費を見積に反映することになり、未取得の場合はそもそも見積を提出できないということにもなりますので、デジタル化作業者の資格情報は重要といえます。
2)第三者機関からの認証取得
委託業者さんが品質管理や情報保護に関して第三者機関から認証取得を得ているかを求めることにより、委託業者さんがデジタル化作業を安全に行う体制が整っているか一定の確認が可能となります。
これらの認証取得については公共施設さんなどの入札案件等を確認すると一般的な認証取得が条件に記載されていますのでご参考されるとよいでしょう。
ただし、これらの認証取得は申請すればすぐに取得できるものではないので、見積時に金額が変わるというよりも、見積先を選定するという観点で必要になると思いますので見積依頼時に提示する条件として検討されるとよいでしょう。
3)デジタル化作業に係る発生文書
委託業者さんにて行われているデジタル化作業を、所蔵施設担当職員さんが管理及び把握するために必要になると考えられる文書は以下の通りとなります。
これらの文書作成に必要な情報の取りまとめや文書の作成工数を委託業者さんは見積時に算出することになりますので、どのような文書が必要か、どのような内容になるか委託業者さんに具体的に提示する必要があります。
①進捗報告資料
デジタル化作業の進捗を報告する資料となります。週ごとに進捗報告を行う週次(しゅうじ)、もしくは月ごとに進捗報告を行う月次(げつじ)で報告を求めることが多いです。工程ごと、1ファイル単位、予定数量と実績など、進捗が管理しやすい内容を検討し委託業者さんに提示しましょう。
②課題及び疑義管理資料
デジタル化作業を行う上で支障となっている事項や検討が必要になっている事項及び、作業上の質問などを所蔵施設さんと委託業者さんで共有管理することが目的の資料となります。規模の大きなデジタル化作業では課題や疑義も多くなり、管理が煩雑になるおそれがあるため、大切な文書となります。デジタル化作業を行っている委託業者さんで作成してもらうことを見積時に伝えることで、委託業者さんでは必要工数として見積を算出することになります。
③作業報告書
この文書はデジタル化作業中ではなく、成果物として求められる文書となります。進捗報告資料や課題及び疑義管理資料は主にデジタル化作業中の状況把握を行う文書となりますが、作業報告書はデジタル化作業全体を把握するための文書となります。作業計画、作業工程、作業体制、作業手順、作業の課題や疑義の一覧など総括できる内容となっていることが大切です。作業報告書の作成については様々な情報の取りまとめが必要となり作成にはある程度の時間が必要となりますので、作業報告書を求める場合には見積時に委託業者さんに提示して見積金額への反映をしてもらう必要があります。
まとめ
今回は見積に必要な情報のなかで「資料貸与返却・作業条件」についてまとめてみました。
内容的に少々細かい部分もあったかと思いますが、安全なデジタル化作業においては必要な事項であると考えます。ただし、デジタル化作業を実際に委託したことがない所蔵施設さんでは中々想像がつきにくい内容かもしれません。今回はデジタル化作業で特に大切な資料の管理に係る内容もありますので、デジタル化作業の見積依頼に際して分からないことや不安なことがある場合には経験豊富なデジタル化業者さんにご相談してみましょう。具体的な説明や解決方法を提示していただけると思います。。
参考URL
・国立国会図書館資料デジタル化の手引2011年版(平成23年8月改訂)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10341525_po_digitalguide170428.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
・国立国会図書館と資料保存
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/pdf/preservation.pdf