
破損しやすい資料を安全にデジタル化するために必要なこと
破損しやすい古文書や劣化が進んでいる資料を安全にデジタル化するには、事前の状態調査と適切な機材選び、丁寧な取り扱い手順の確立が欠かせません。
原資料の保全を最優先にした作業設計から、非接触型スキャナーの導入、仕様書への安全対策の盛り込み方まで、安全にデジタル化を行うために必要となるポイントについて解説します。
目次[非表示]
破損しやすい資料のデジタル化で押さえるべきポイント
紙の酸性化による劣化や古文書の虫喰い・綴じ糸の切れ、写真資料の表面劣化など、破損しやすい資料のデジタル化では、通常のデジタル化作業とは異なる慎重な対策が求められます。
デジタル化作業の目的は「資料の活用」だけでなく、「原資料の保全」や「原本への接触機会の削減」といった要素もあります。
作業自体で資料を傷めてしまっては本末転倒ですので、作業現場では以下の2つの原則を徹底する必要があります。
原資料の保全を最優先にした事前状態調査
作業に着手する前に、必ず対象資料1点ごとの状態調査(コンディション・チェック)を行います。
劣化や破損の状態を正確に把握することで、安全にデジタル化作業ができるかどうかを見極めるためです。
事前調査では、主に以下の項目を確認します。
• 紙質の脆弱化:酸性化による劣化・変色・破れ・欠損の有無
• 綴じの状態:和装本の糸切れ、洋装本の背の割れや糊の劣化
• 構造上の制約:ページを開く角度(開口度)の限界
• 表面の状態:墨書や印影の定着度、カビの発生、虫喰いの進行状況など
状態調査の結果、破損リスクが極めて高いと判断された資料については、専門業者による修補等の事前処置を検討するか、撮影手順を個別に変更する判断が必要です。
ADF(自動原稿送り装置)の使用を避ける
劣化が進んだ紙資料や薄紙、和紙資料などについては、自動原稿送り装置(ADF)を使用したスキャンは避けるべきです。
自動給紙機構は重送を防ぐためにローラーで強い圧力をかけるため、以下のような重大な破損事故を引き起こします。
• ローラーによる紙の破れ・巻き込み
• 脆弱化した紙の角の折れ・欠損
• 表面処理が弱い資料の摩耗
破損しやすい資料のデジタル化では、手作業で1枚ずつ慎重にセットするフラットベッドスキャナーや、資料に非接触で撮影できるオーバーヘッド型スキャナーの利用が原則となります。
なお、状態の良い紙資料など破損のリスクが少ない資料であればADFを使用することで短時間で大量のデジタル化作業が可能となります。
資料の状態や形態によって使用するスキャナーを適切に選定することがデジタル化作業では重要となります。
【作業工程別】破損しやすい資料の具体的な取り扱い方法
破損しやすい資料を扱う際は、準備から撮影、保管環境に至るまで、各工程で徹底した取り扱いルールを設ける必要があります。
【事前準備】開口度や綴じ状態に応じた整え作業
撮影作業に入る前の準備工程において、資料へのストレスを最小限に抑える配慮が必要です。
【撮影・スキャン】非接触型(オーバーヘッド型)スキャナーの活用
破損しやすい資料などは「非接触型(オーバーヘッド型)スキャナー」またはデジタルカメラ撮影方式を使用します。
非接触型スキャナーには以下のメリットがあります。
資料に触れずに撮影可能:上部からカメラで撮影するため、ガラス面への押し付けによる破れを防ぎます。
熱や紫外線カットの照明:LED照明など、光線や熱による資料への影響を抑えた光源を使用します。
【作業環境】落下・接触事故を防ぐ作業台の設置
デジタル化作業を行う作業スペースの環境構築も、資料の安全に直結します。
十分な作業スペースの確保:資料のサイズに対して十分な広さを持つ作業台を用意し、作業中の資料滑落や接触事故を防止します。
飲食物・化学物質の持ち込み禁止:作業エリア内での飲食はもちろん、薬品や不適切な接着剤などの持ち込みを禁止します。
仕様書に盛り込むべき安全対策と作業条件
デジタル化作業を外部委託する際、作業仕様書にどれだけ具体的な取り扱い条件を明記できるかが、事故防止の鍵となります。
委託業者に提示すべき取扱マニュアルと資格要件
業者選定および仕様書作成にあたっては、単に作業価格やスピードを評価するのではなく、資料保全に関する技術や体制を要件として組み込みます。
作業体制と資格:文書情報管理士などの専門資格保有者が作業に従事または作業管理すること。
作業計画書の提出:事前調査、搬入搬出、撮影時の取り扱い手順を定めた作業計画書の提出を求めること。
類似資料の作業実績:古文書や酸性紙、大判図面など、同等以上の脆弱資料を取り扱った実績を条件とすること。
万が一の破損事故に備えた連絡・相談体制の定義
どれだけ慎重に作業を行っても、経年劣化の激しい資料では作業中に小さな破れや綴じ糸の緩みなどが発生するリスクをゼロにはできません。そのため、問題が発生した際の連絡・相談体制を事前に仕様書へ盛り込みます。
≪連絡・相談体制の例≫
事故・トラブルの分類 | 現場の対応 | 報告・連絡手順 |
軽微な劣化の進行(既存の小さな破れの広がり等) | 資料状態を写真撮影して記録 | 当日の作業終了までに作業管理者へ報告 |
中度の損傷(ページの脱落、表紙の分離等) | 直ちに作業を中断し、資料を安全な場所に保護。 | 直ちに作業管理者へ連絡し、指示を仰ぐ。 |
不測の事故(重大な破損、汚損、紛失等) | 直ちに作業を中断し、資料を安全な場所に保護。 | 直ちに作業管理者へ連絡し、作業管理者は委託者へ即時連絡し事象報告を行う。 |
デジタル化後の原資料保管とデータ利活用のポイント
デジタル化完了後、原資料を引き続き安全に保管するための環境構築と、デジタルデータの利活用環境の整理を行います。
スキャン後の保管と環境管理
デジタル化のために一時的に持ち出された資料は、作業完了後、安全な保管環境に戻すことが推奨されます。
文書保存箱の活用:酸性紙資料など劣化が懸念される資料は、外部からの光やホコリ、温湿度変化を和らげるため、専用の文書保存箱(中性紙保存箱等)に収納します。
保管庫の環境維持:カビの発生などを防ぐため、保管庫内の徹底した温湿度管理を継続します。
原本の閲覧回数を減らすデジタルアーカイブ活用
デジタル化の大きな目的の一つは、「原本の閲覧頻度を減らすことによる保全」です。
高精細なデジタル画像を作成し、デジタルアーカイブシステム上で公開・閲覧できるようにすることで、利用者は原本に触れることなく研究や調査を行えるようになります。これにより、原本の物理的な摩擦や劣化のリスクを大幅に削減できます。
破損しやすい資料のデジタル化に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 酸性化が進んでボロボロと崩れてしまう紙資料でも対応可能ですか?
A. 状態によりますが、非接触撮影や手作業による丁寧な事前準備作業を行うことで対応できるケースが多くあります。ただし、著しく劣化が進行している資料の場合、事前に専門的な修復・補修を実施する必要があるかどうかなど、撮影可否を慎重に判断いたします。まずは現物確認や事前調査をご相談ください。
Q2. 図書館外に持ち出せない貴重資料の場合、館内での撮影作業はお願いできますか?
A. はい、対応可能です。専用の機材と技術スタッフを図書館内の指定スペースにお持ちし、現地で撮影作業を行う「オンサイト作業」に対応しております。貴重資料の安全を第一に考慮した作業環境を構築いたします。
Q3. デジタル化の見積を依頼する際、どのような情報を用意すればよいですか?
A. 資料の種類(和書、洋装本、一般文書、大判図面など)、数量(冊数や点数)、大きさ、状態(開口度や破れの有無)、および作業場所(オンサイト作業か委託業者施設内か)の情報があるとスムーズです。確定していない項目がある場合でもお見積りは可能ですので、事前調査を含めまずはご相談ください。



















